創立75周年記念委嘱作品 混声合唱とピアノのための「四季の翼」
混声合唱とピアノのための「四季の翼」【初演】
辻裕久 & なかにしあかね 公式チャンネル より
VIDEO
創立75周年記念
札幌放送合唱団第67回定期演奏会
2017年11月23日札幌市教育文化会館
パンフレットより
作曲者 なかにしあかね 様 からのメッセージ
北の大地に敬意を
札幌放送合唱団創立75周年記念演奏会の開催おめでとうございます!!
大切な記念の演奏会のための新作をご依頼頂き、身に余る光栄に存じます。
昨年6月に練習に伺い、札幌放送の音に浸る機会を頂きました。おおらかで、どこか懐かしく、生々しくなり過ぎない程よい距離感で感情移入できるテキストが良いと感じ、その日のうちにご提案したのが、イギリスロマン派詩の翻訳で、というアイデアでした。
ジョン・キーツの言う「ネガティヴ・ケイパビリティーNegative Capability=無作為の力」とは、その字面から受ける印象とはうらはらに、非常に高い能力をともなった人間性の豊かさを指します。短絡的にレッテルを貼ったり、短気に理由を求めるのではなく、不確かさの中にとどまれること。世の中のすべての物事が解決可能ではないという状態を受容出来ること。確かさと不確かさの狭間に、多くの部屋=受容する空間を持ちうること。キーツはこの言葉で、シェイクスピアをはじめとする過去の偉大なる詩人達の突出した能力を表そうとしました。
私にとって北海道は常に憧れの地であり、北の大地に生きる人々はこの「ネガティヴ・ケイパビリティー」に長けた人々という印象を持ち続けています。細かいことを気にしないおおらかさ(いい意味で!)、厚かましさの感じられない柔らかな存在のしかた(いい意味で!)、長い冬を過ごす知恵と春の喜び・・・北の大地で歌を育て、歌い継いで来られた札幌放送合唱団75周年の歩みに、心からの敬意を表します。
辻秀幸先生、石田敏明先生、合唱団の皆様をはじめ、本日の初演に御尽力下さいましたすべての皆様に、厚く御礼申し上げます。
2017年11月23日
なかにしあかね
PROFILE (2017年11月23日時点)
東京芸術大学音楽学部作曲科卒業。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ大学院にて作曲修士号、キングスカレッジ大学院にて作曲博士号を修める。作曲をサー・ハリソン・バートウィスル各氏に、声楽伴奏法を、故ジェフリー・パーソンズ、イアン・レディンガム各氏に師事。第66回日本音楽コンクール作曲部門第1位及び安田賞受賞、国際フランツ・シューベルト作曲コンクール入賞ほか、吹田音楽賞、現音新人賞、深尾須磨子作曲賞など入賞、入選多数。作曲家、演奏家双方の立場からの「ことばと音楽」についての研究を続け、歌曲伴奏者としても充実した活動を行っている。平成17年度文化庁在外研修員として半年間ロンドンにて研修。現在、宮城学院女子大学教授。Handel
Festival Japan実行委員。公式ホームページ「サウンド インターナショナル ジャパン」
《主要作品》テノールと室内楽のための『3つの冬の詩』、テノールとオーケストラのための『ヨナ』、『Weep you no moreシリーズT〜Y』(ギター協奏曲、室内楽、独唱曲)ほか、合唱曲、歌曲、ピアノ曲など多数。
ごあいさつ〜創立75周年を迎えて
札幌放送合唱団代表 高橋 彰
本日は創立75周年記念札幌放送合唱団第67回定期演奏会にご来場くださいまして誠にありがとうございます。
当団では2年ほど前に、創立75周年記念事業として新作の委嘱に取組むことを決め、作曲者として、第63回定期演奏会で演奏した混声合唱組曲「よかったなあ」の作曲者である「なかにしあかね」先生に依頼することとしました。
新作の委嘱では詩を選ぶことが重要になります。そのプロセスでは、委嘱する側から、例えば「北海道に縁のある詩人の作品を」といった何らかの提案をすることがありますが、今回はそのことには拘らず、「なかにしあかね」先生に当団の練習に立ち会っていただき、その後の語らいの中で検討を深めることとなりました。
当団の印象や「なかにしあかね」先生が抱いていた北海道への想いと、あたためられていた素材がつながったのでしょうか、英国ロマン派の詩を選ぶこととなりました。
私は訪れたことがないのですが、英国と言えば、北海道に比べて緯度は高いが温暖で雪は少ない、一年を通して雨の日が多くどこか暗鬱としている印象があります。樹木の葉が落ち積雪を待つ11月末から12月の札幌に重なるような気がしています。
英国の四季に因んだ原詩を「なかにしあかね」先生が選び、自ら日本語詩とすることで、どこか北海道を感じながらも普遍的、時に昭和歌謡やJPOPを連想させる親しみやすさとスケールの大きな旋律、それ故にしっかりとした歌唱力が求められる、混声合唱とピアノのための「四季の翼」が本日初めて世に出ることになりました。終始誠実に真摯に取組んでくださった「なかにしあかね」先生に心から感謝申し上げます。
この作品の指揮には、同じく4年前の「よかったなあ」の指揮で、強烈な存在感とともに歌うことの根源的な歓びを喚起してくださった辻秀幸先生をお迎えしました。
「四季の翼」が、今後北海道はもとより全国各地で数多く演奏されることを願います。
また今回5年ぶりに、75年の歴史を築いてくださったOB会の皆様にお集まりいただき、合同ステージを設定いたしました。そして田三郎作曲の日本の合唱曲のスタンダード「心の四季」の演奏では、上田哲先生という若い力との幸せな出会いもありました。図らずも「四季」がキーワードとなった本日の演奏会、75年の四季をめぐり先人から受け継ぎ重ね合わせた歌への想いを、「四季の翼」にのせてお伝えできれば幸いです。
加えて、大嶋恵人先生には、穴戸悟郎先生を失った後の困難な時期を支え、75周年まで導いてくださいましたこと、心から感謝申し上げます。
「なかにしあかね」先生からお示していただいた「ネガティブ・ケイパビリティ」…不確かさの中にとどまれる力…という言葉、当団の状況に映し重ねてその意味を噛みしめています。今後とも札幌放送合唱団へのご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。